ゆうゆうかんでは、商業者の方向けに専門家の方々から商業・産業にまつわるさまざまな事例を紹介していただくセミナーを企画しています。今回はブログセミナー形式で、中小企業診断士の 田内孝宜氏 にスターバックスを事例とした成功企業の秘密をご紹介いただく企画をお送りいたします。
前回までの2回で、スタバの概要から事業展開の特長、JR大津駅への出店までを確認してきました。今回が、本シリーズの最終回ですので、今までの議論を踏まえ、マーケティングの考え方の一つである4P(Product、Price、Place、Promotionの4つの頭文字)を用いて、話をまとめてみたいと思います。
前回までの2回で、スタバの概要から事業展開の特長、JR大津駅への出店までを確認してきました。今回が、本シリーズの最終回ですので、今までの議論を踏まえ、マーケティングの考え方の一つである4P(Product、Price、Place、Promotionの4つの頭文字)を用いて、話をまとめてみたいと思います。
《「4P」という考え方の概要》
マーケティングの4Pとは、製品:Product、価格:Price、チャネル・物流:Place、プロモーション:Promotionのことを指します。企業がマーケティングを実施する際は、標的とする市場(例えばJR大津駅前 等)に対し、マーケティングの要素である4Pをどのように投入していくかを検討します。
図1 4Pの概要
項 目
|
検討・意思決定事項
|
製品
(Product)
|
・製品の物的性質・特徴
・品質、ブランド、保証、パッケージ
・アフターサービス 等
|
価格
(Price)
|
・高価格戦略/低価格戦略
・値入れ、値上げ、値下げ、割引
・価格変更の理由、時期 等
|
チャネル・物流
(Place)
|
・流通経路、流通業者の選定
・店舗の数、立地、輸送手段、運送頻度
・適正な在庫量 等
|
プロモーション
(Promotion)
|
・広告目的、予算、媒体、表現、広告効果測定
・販売員の人数、教育訓練、業績評価
・販売促進の種類・展開方法、パブリシティの目的・対象 等
|
《スタバの4PとJR大津駅前への出店》
前回まで見てきたこと、その他調査したことを踏まえ、私なりにスタバの4PとJR大津駅前への出店をまとめると以下のようになります。
図2 スタバの4PとJR大津駅前への出店
項 目
|
取り組み内容・目的 等
|
製品
(Product)
|
・アラビカ種に限定したコーヒー豆へのこだわり
→ スペシャリティコーヒーのイメージを確立
・定期的な新メニューの投入
→ マンネリ化の防止、顧客満足の向上、リピート来店の促進
|
価格
(Price)
|
・高単価商品の開発・投入
→ 一般的なコーヒーチェーンと比較して高価格
|
チャネル・物流
(Place)
|
・チェーン展開のため流通体制は万全
・立地:JR大津駅前(1日あたりの平均乗車人員は17,251人)
→ JR大津駅前は「サードプレイス」空白地帯
|
プロモーション
(Promotion)
|
・大規模なTVCM等は行わず、こだわりのインテリア等が生み出す「サードプレイス」のイメージを武器に口コミ等で集客
・ハイクオリティな店員による上質のサービス
→ 十分な従業員教育が実現する、恰も個人店のような丁寧な対応
|
スターバックスの場合、製品(Product)、価格(Price)は、基本的には全国で共通です。一方で、大津店の特徴を探ってみると、チャネル・物流(今回は「立地」)(Place)という観点では、JR大津駅前がサードプレイス空白地帯となっており、潜在的に存在するサードプレイス需要を取り込む狙いがあったのではないでしょうか。実際にJR大津駅の店舗を覗いてみると、ビジネスパーソンが目に付きます。
そして、現在のスタバの知名度があれば、出店するだけで話題性が生まれ、プロモーション(Promotion)が実現します。具体的には、第1回で紹介したようなコメント(スタバができたらしいね)が交わされることで、口コミによるプロモーションが自発的に発生していきます。
《スタバに関するまとめ》
スタバは高単価な商品を販売していますが、それがお客さまに受け入れられるのは「サードプレイス」という経験価値を提供し、その価値を認められているからではないでしょうか。
そして、そのサードプレイスが成立する背景には、丁寧な従業員教育が存在し、チェーン店でありながら、「1,000の店舗、1,000の個性」という恰も個人店のようなきめ細かく、ハイクオリティなサービスを提供できる強みが存在していると感じます。
チェーン展開により、メニュー開発や物流、店舗開発においてはメリットを享受しつつ、各店舗においては、個人店のような個別対応を実現できている点に、スタバの成功の“ヒミツ”が潜んでいるのではないでしょうか。
ここで、一つの疑問が湧いてくるかもしれません。
〜 サードプレイスの提供なんて、スタバのようなブランド力のある大企業だからできるのではないか? 〜
確かに、スタバの真似をするのであれば大資本が必要かもしれません。しかし、個人商店のような小規模事業者の皆さまにもサードプレイスの提供は可能だと思います。
《商店街こそサードプレイス》
図3 ナカマチ商店街のようす
出典:ゆうゆうかんホームページ
実際にわたしのお客さまで「生花店」「陶器製造業」「洋食店」等の経営者は、本業を盛り上げるための取り組みとしてサードプレイスを提供しようとされています。具体的な手法は、皆さま異なります。お花教室の開催やカフェの併設、敷地を利用したイベント開催等、ご自身の事業を見つめ直し、本業との親和性が高く、お客さまに喜んでいただける方法を検討されています。
人が集まる、更には交流する、その結果として自社の製品・サービスが購入されるという流れは作れると思います。そして、個人単位でそのような機能を果たすことは、必ずしも簡単ではありません。そうであるからこそ、商店街という仕組みが有効なのではないでしょうか。
人が集まる場所・仕組みを提供するのが、商店街という組織の役割だと思います。
商店街ではお店が集積していますので、道行く人の密度が上がります。すると、そこで出会いが生まれ、道ゆく人同士が立ち止まって会話する、つまり交流が生まれます。また、商店街としてのイベントを開催することで周辺から新たなお客さまを呼び込むことも可能です。「人」を集めたり、「交流」を生んだりする、それが商店街の大切な役割だと感じます。
自分の家でもなく、学校・会社でもない、第三の居場所としての商店街。今後も商店街が地域の皆さまから必要とされる存在であり続けるためには、商店街としての役割、単に製品やサービスを提供するだけでなく、人々に交流・居場所を提供する役割、を見つめ直し、改めて強化・発信していく必要があるのではないでしょうか。
スターバックスの成功の“ヒミツ”の一つは、「サードプレイス」という価値をより多くの人に提供したことでした。そして、そのサードプレイスを支えている大切な要因の一つは、個人店のようなサービスを可能とする従業員でした。
3回に亘り、わたしの考えを記事として掲載してまいりましたが、皆さま、どのようにお感じなったでしょうか。同意いただける部分もあれば、異なるお考えをお持ちになった箇所もあるかと思います。
商店街が果たす役割として、地域の皆さまにとっての「サードプレイス」という役割が求められていると感じます。今回のシリーズが、「商店街の今後」を考える上で一助となれば幸いです。